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山下整骨院・山下鍼灸院
体性-自律神経系 生活科学研究所
Institute of Somatic Autonomic Nervous System Life Science
院長 山下和彦(博士: 生活科学/大阪市立大学)
練馬区豊玉北4ー2ー12 AM9:30~PM6:00(月~金;土・日、祝祭日は要相談)
2025年2月12日 更新
心拍変動は異なる発生機序から様々な成分が含まれている。迷走神経機能(心臓副交感神経機能)である周波数解析での高周波成分(high frequency; HF)として測定される呼吸性洞性不整脈の発生には、脳幹レベルで呼吸に関与している。一方、HF成分の振幅と迷走神経活動との間の定量的関係は呼吸条件によって影響を受ける。
低周波成分(low frequency; LF)は交感神経活動の指標として用いられることがあるが、この成分はむしろ心臓迷走神経活動によって強く影響を受ける。現在では、LFもしくはLF/HFは交感神経活動の評価としての理論的根拠はない。しかし、心筋梗塞の不整脈による死の予後予測として重要な臨床的意義があり、今後の研究が望まれる。
主に早野順一郎博士の論文を参考または引用して説明しているので、詳細は本編をお読みください。
心拍変動の構成成分と発生機序
5分間の安静心電図のR-R間隔のゆらぎを周波数解析すると、高周波成分(HF>0.15Hz)および低周波成分(0.04-0.15Hz)の2つの主要なピークが観察できる。この成分は自律神経遮断剤や心臓移植による神経が切断された状態では消失することから、自律神経活動そのもののゆらぎにその起源があると考えられている。
HF成分は呼吸周波数が0.15Hz以上(呼吸数9回/分以上)の時、呼吸性洞性不整脈(RSA)による心拍のゆらぎは迷走神経活動によって定量的に反映される。
LF成分である低周波数(0.04-0.15Hz)は血圧変動のMayer波が圧受容体反射を介して心拍に反映されていると考えられている。Mayer波とは、呼吸周波数より低い周波数の血圧変動を指す。Mayer波の発生機序は確立されていないが、交感神経による血管収縮反応が交感神経の興奮から約5秒遅れて出現し、この遅れによって血圧に約10秒周期のゆらぎの生じることが示されている。
呼吸性洞性不整脈の意義
RSAは呼吸と循環との協調作用を示す現象であり、主な発生機序は脳幹である。脳幹からの心臓迷走神経出力は、呼吸中枢の干渉により、吸気時に抑制され、呼気時に増加する。また、圧受容器反射や上位中枢からの迷走神経刺激性入力は、肺の伸展受容体からの入力によって、吸気時に遮断される。
RSAは深呼吸時や呼吸数が減少した時に顕著になる。深呼吸時には吸気時と呼気時の肺胞容量の差が増大し、呼吸数の減少時には呼気時相が延長して、肺胞内のガス換気が起こらない。いずれの場合も吸気時と呼気時のガス交換容量の差が増大すると考えられ、RSAが顕著になる。
安静時や睡眠時などの休息時には迷走神経活動の亢進によって心拍数が減少するが、RSAはそれに伴って顕著になる。このRSAが吸気時に心拍数を減少させる現象は、ガス交換効率を損なうことなく休息時の循環エネルギーのエネルギー消費を節約することに役立っていると考えられている。
HF成分による迷走神経活動評価の問題点
心拍変動による心臓迷走神経活動の評価は、心拍変動解析の中で最も確立した指標であるが、HF成分の振幅による心臓迷走神経活動評価に関しては4つの問題が指摘されている。
1.HF成分は、心臓迷走神経活動の呼吸性変動によって生じるので、HF成分の振幅は吸気時と呼気時との間の心臓迷走神経活動レベルの差を反映する。この差が、迷走神経活動の平均レベルを反映するには吸気時の心臓迷走神経活動がほぼ完全に抑制される必要がある。HF成分の振幅は1回換気量の増加によって増大するが、この現象は、吸気時の肺の伸展が強くなることによって吸気時の迷走神経刺激性入力がより完全に閉じられる(gating)ためだと考えられる。
逆に、呼吸が浅くなると吸気時の迷走神経活動の関与が無視できなくなり、HF成分の振幅と心臓迷走神経活動との比例関係が失われる可能性が出てくる。
2.HF振幅は呼吸数の増加に因って減少するが、呼吸数が増加すると心臓迷走神経活動の変化にR-R間隔の変化が付いていけなくなるためだと考えられる。
呼吸周波数によるHF振幅の変化は迷走神経活動の平均レベルの変化を介するものでは無く、迷走神経による心拍調節計の特徴によるものである。この事実は、HF成分の振幅による心臓迷走神経活動の評価には、1回換気量と呼吸数の変化に対する配慮が必要であることを示している。
3.Goldbergerらは、圧受容体刺激によって心臓迷走神経の興奮が高まるとHF成分の振幅が逆に減少すると報告した。
Phenylephrineの静脈投与によって血圧を上昇させると心拍数が全例で減少するにもかかわらず、HF成分の反応は個体差あり、かなりの例で逆説的な減少がみられた。
迷走神経活動レベルがある程度以上高まると吸気時のgatingが働かなくなり、呼気時のみでなく吸気時の迷走神経活動も増加するために、HF成分の振幅が減少するのではないかという可能性を示唆している。
4.自律神経活動評価を心拍変動によるゆらぎについて、洞結節の発火頻度から推定する必要がある。
自律神経中枢の活動と心拍のゆらぎとの間には、①中枢から洞結節に至る一次及び二次ニューロンとその神経線維、②シナプス、③ペースメーカー細胞の受容体とその細胞内情報伝達機構、④イオンチャネルと細胞内外のPH、⑤イオン環境などが介在因子として存在する。さらに、心拍変動をR-R間隔として測定する場合には⑥房室伝導時間に関連する因子も関与する。
非正常洞調律下の心拍変動にはここで述べた知見が全く当てはまらない。また、正常洞調律であっても、疾患群や薬物の影響下で得られた心拍変動から自律神経活動を評価する場合には疾患や薬物が介在因子に与える影響を十分に考慮しなければならない。